きらきらひかる / 江國香織

ちゆき

中学生の頃から江國香織さんの小説が好きです。

きっかけは母が江國さんの本をたくさん持っていたこと。(ちなみに今は大好きな村上春樹さんの本もいっぱいあったのに、当時はあまり肌に合わず。20代後半になってから一気に読むようになりました)

江國さんの小説で好きなのはとにかく文章。そして作品全体に流れる独特の透徹とした空気、頑固で不器用な登場人物(が多い)。

文体は作品や年月によって変わりもしますが、個人的には初期のものが特に好きです。中学生のときに江國さんの本を初めて読んで、「水のような文章だなぁ」と感じたことを今でも覚えています。語彙力が乏しいのですが、要は透明感があると言いたかったわけです。

「きらきらひかる」は同性愛者の夫(内科医)とアルコール依存症の妻(翻訳家)の物語です。改めて自分の文章でことばにするとすごい設定ですね。夫の睦月には紺(男性)という恋人がいます。そしてそれは妻の笑子も承知済み。

設定だけ見ると中学生の女の子が読むにしてはややどぎついんじゃないかと20年後の本人も思いますが、睦月も笑子もすごく純粋です。だから両親が公務員で頭のかためな家庭にも置いてあり、全然ませてなくて、むしろどちらかというとこじらせ系の女子(私)でも読めて感動する。

睦月と笑子がまっすぐで正直。お互いを大事に思っている、でも傷付けてしまう。初めて読んだときは何度も号泣。そこまで泣くようなシーンだとは自分でも思わないような何気ないシーンでぶわっと涙が出ることもありました。睦月も笑子も好きだなぁ。。

睦月の恋人である紺くんは人をからかうのが好きな掴みどころのない男の子。憎めません。不器用すぎる夫婦との組み合わせがまた面白い。

「きらきらひかる」は初期の作品なこともあって、江國さんの文章としてはそれ以降の作品と比べるとわりとストレートな表現や描写が多いように感じます。洗練されているという意味では江國さんの小説の中では荒削りな方かもしれません。(おこがましくてこんなこと書いて良いのか勝手にビクビクしちゃいますが) でもそこがこの作品の魅力のひとつになっていると思います。

「ただいま」
ふりむいて、お帰りなさい、と言うときの笑子の笑顔が、僕は心の底から好きだ。笑子は決して、うれしそうにでてきたりしない。僕が帰るなんて夢にも思わなかった、というような、びっくりした顔をして、それからゆっくり微笑むのだ。ああ、思い出した、とでもいうように。僕はとてもほっとする。僕がでかけているあいだ、この子は僕を待っていたわけじゃないのだ、と思う。

妻が自分の帰りを待っていたわけじゃないと思ってほっとする夫は奇妙にうつるかもしれないけれど、この部分が好きです。

マイペースで自分のリズムを大事にする笑子と、彼女への負い目もあってかそのことで安心する睦月。もちろん純粋に笑子のそんなところが好きな気持ちもあると思います。

はっきり書いてしまうと、睦月は同性愛者であり、この夫婦には肉体関係がありません。当然そのことで生じる苦しみや葛藤もあるけれど、時には傷付けながら不器用になんとかしようとする姿が痛々しくて愛おしい。

何度読んだかわからない、大好きな作品です。